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ジャストコラム

縁は異なもの…

「縁は異なもの味なもの」と言いますが、有るきっかけを端にして人と人のつながりが不思議に交差していると思われたことはないでしょうか。アトリエを主宰している大学時代の友人O君が設計に関わった、G・Kという建物にまつわる、少し面白くて不思議な縁を一つご紹介させて頂きます。

10年ほど前の、世の中は聖者キリスト生誕前夜が迫って浮つく中、O君から「新しい住宅の設計があるのだけど、スケッチ送るし、年明けでいいのでプレゼンテーション用の計画書をもらえるかな?」と連絡が有りました。住宅ということで、ちょぼちょぼのまぁあっても30坪くらいのものかなと思っていたものでしたから、レイザーショットからどんどん吐き出される山のような紙を見て、一体これは何もの?と呆れて見ていました。

送られてきたファックスには二つの案が描かれていました。
どちらも住宅にしては立派過ぎるプランで、しかも渋谷のN駅から徒歩圏内のそれはまぁたいそう広い敷地です。
O君に聞くと、何でも某大手銀行の頭取が住んでいた場所らしく、土地だけでもン億円だとか。

大半はなんだかんだであっという間に消え、残った僅かなボーナスで年末ジャンボに希望を託し、大晦日の昼まではささやかな夢を描く庶民が多い中、世の中にはなんと豪勢な人が居るものかと、O君に「このクライアント、誰か聞いてもいいの?」と聞くと「内緒だけど、某人気グループのKさん」「え゛~っ!僕をさておき、友達だったの?」「いやいや、G・Kのお馴染み客さんで、最近念願の土地を買ったらしくて。それで、建物の設計をお願いしたいので、G・Kの設計者を紹介して欲しいって、G・Kの女将さんから話が来て…」「へぇ~」としか言いようのない私。そう言う筋から仕事の依頼が来るものなのですねぇ。

G・Kは首都圏から日帰り圏内の人気温泉地にある、知る人ぞ知る高級旅館です。
その温泉地の急峻な山肌を走る登山鉄道は、終着駅の手前でその敷地を舐めるようにして大きくカーブし、目隠しのようになった大きな木々の隙間から齣撮り写真の様に建物が見えますので、もしかしたらご存知の方がいらっしゃるかも知れません。昔は離れの部屋が広大な敷地の中にぽつぽつあって、利用者のプライバシーがしっかり守られていたためその筋の人達がお忍びで随分利用されていたようですが、三十年ほど前に思い切って建替え新築し、その時の設計者が私の大学時代の友人O君と言う訳です。

で、話は戻りまして、なぜ二つの案があるかと言いますと、土地購入で思いのほか出費が嵩んだため、建物の予算は控えめにしたいというご希望があったそうです。でも、まだ小さい娘さんが二人いるし、奥さんは歌手であるだけでなく絵も描いて展覧会では賞を取るほどの腕前でアトリエも欲しいし、二人でサーフィンをするからボードの置き場が欲しいし、車は軍用車のようなハマーをはじめとして4台は持っているしで、色々御希望があり、友人の話によると希望をてんこ盛りにすると、概算ですけどもともとの予算を一億ほど超えてしまうと聞きました。

年が明け、「こちらが予算内の案。こちらはご希望てんこ盛り夢いっぱいのプラス一億円!さぁ、どうしますか?」と二つのプランをKさんに見せると、Kさんご夫妻はしばし考えたのちご希望てんこ盛りを選んで、Kさんが一言「頑張ります」と仰ったそうです。思い返せば、TVのCMで結構見る機会が増えた時期がなんとなく重なります、単なる偶然だったかも知れませんが。

地下1階・地上3階で延べ床面積100坪を超え、貸したらいい家賃が取れそうな独立する物置小屋まである豪華な住宅は、どういう成り行きか、住宅の施工など先ずは受けることのないスーパーゼネコンのT工務店に決定しました。

いざ着工の地鎮祭、出席者はKさんご一家と、ご夫妻が所属する会社のI社長に、T工務店関係者と我々設計者の面々。

テントの中で関係者着席して待つ緊張の中、時間相成りまして、カメラとビデオをそれぞれ手に抱えたI社長を先頭にKさん御一家静々と登場!と共に何故か場内明るくなって良い香りが辺りに立ち込めたように思えたのは気のせいだったでしょうか、生で芸能人を見慣れていないからだったのでしょうか?

地鎮祭が滞りなく終わった後、Kさんは立ち上がる関係者の一人一人の手を両手で持ちじっと目を見て「力を貸してください、よろしくお願いします」と丁寧に挨拶をしていて、それまでは何のつながりも無かった人達をKさんが見えない糸でしっかりと繋いで行くかのように思えました。

会う前は「芸能人でお高く留まっているのでは?」と勝手に思っていたのが雪崩のように崩れ落ち、見つめられて両手で右手を握られた瞬間「貸す貸す、いくらでも貸します!」と心の中でコクコク頷いていたのであります。

良く聞けば、ご近所の回覧板は回すし、時折ある町内清掃にはちゃんと夫婦で顔を出し、娘さんの幼稚園の送り迎えはするしで、近隣関係は極めて円満とのこと。こういう時、施工会社は助かるもので、工事中は少々の振動・騒音あれどもご近所からの文句は一切なく、工事は至極順調。上棟式にはKさんご一家によるオリーブの植樹式も執り行い、工期通りに無事竣工を迎えたのでした。めでたし、めでたし。

以上、不思議な縁のお話でございました。

G・Kにまつわる不思議な縁についてはまだありますが、それはまたの機会に。

設計部 部長 金子寛文