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ジャストコラム

~強度(C)と粘り強さ(F)とは?~

耐震診断の際の目安となる指標について紹介した前回のコラムでは、建物の耐震性能は主に強度(C)と粘り強さ(F)で決まると説明しました。このうち「強度」は、文字どおり、地震に対する建物の強さの度合いを表わすものです。では「粘り強さ」とは何でしょうか。建物が粘り強いと、どんなメリットがあるのでしょうか。

地震の力は一種のエネルギーです。従って、建物の耐震性能を高めるには、いかにエネルギーの吸収能力を高めるかを考える必要があります。建物に大きなエネルギー吸収能力を保有させれば、より大きなエネルギーの地震に耐えることができるからです。そして、ここで「強さ」と「粘り強さ」が意味を持ってきます。

まず、非常に強度が高く、どんな地震が来ても「必ず元に戻る」と言う建物があったとします。その建物の力(地震)と変形の関係をグラフにするとa図のようになります。

a図


「力×変形」はエネルギーになりますから、網の目の三角形の面積が建物の保有する総エネルギーです。

次に、強度はさほどないものの、いったん損傷を受けた後、強度を保持しながら変形だけが進んでいくという建物があったとします。その建物の力と変形の関係をグラフにするとb図のようになります。

bの建物はaの建物に比べ、強度は低いですが、いったん損傷を受けてからは耐力を保持したまま変形が進んでいきます。従って、斜線部の面積が同じであれば、どちらの建物も同等のエネルギー吸収能力を持つということであり、建物の耐震性能は同等の能力があると見なせます。

b図①の三角形の面積と②の四角形の面積が同じなら、合計の面積が同じなので、エネルギー吸収能力は等しいと考えられ、耐震性能上は同等とみなせる。


上の図で、折れ曲がりの点は損傷し始めた点(Pe)で、力学的には「降伏点」と言います。この時の変形をδe、最後の変形をδyとすると粘り強さはδyで表すことが出来ます。

こうしたことから、建物の耐震能力とは、地震のエネルギーをいかに受け止めるかということであり、その方法としては(1)建物の強度を上げる、(2)強度は“そこそこ”にとどめておき、損傷後の変形能力(粘り強さ=靭性)を持たせるようにする、の2つが考えられます。

ただし、(1)のように強度を上げることだけで対応する方法は、技術的には不可能ではありませんが、経済的な面から考えると、決して得策とは言えません。建物の強度を上げるためには、柱梁の部材はより太く、鉄筋や鉄骨もより大きくする必要があり、当然ながらその分だけコストも上昇するからです。

一方、(2)の方法なら、比較的よく起こる(震度5程度までの)地震に対しては損傷しないだけの強度を確保することができます。同時に、ごくまれに発生する(震度6以上の)大地震に対しては、損傷はするものの、その後のエネルギーを受け止める力があるため、急激な倒壊、大破を免れる可能性は高くなります。(1)の方法に比べ現実的でコストパフォーマンスが高い方法といえるでしょう。