~耐震診断と耐震改修の事例~
これまでのコラムで、耐震診断の対象となる建築物や、耐震診断の際の重要な目安となるIs値(構造耐震指標)などについて紹介してきましたが、実際の耐震診断や耐震改修はどのようにして進めるのか、ご存知ない方も多いと思います。
そこで今回は、私たちジャストが実際の業務に使用している建物で行った耐震診断・耐震改修の実施例を紹介しましょう。
今回、耐震診断・耐震改修を行ったのは、以下のような建物です。
- 建物名:株式会社ジャスト名古屋営業所
- 構造種別:鉄骨造
- 建物規模:2 階建て
- 延床面積:417m2
- 竣工年:不明
- 構造的な特徴:X方向はラーメン架構、Y方向はブレース架構
この建物を、現行法の診断基準(耐震改修促進法のための既存鉄骨造建築物の耐震診断および耐震改修指針)に基づいて耐震診断した結果、Is 値(構造耐震指標)およびq 値(保有水平耐力に係わる指標)は、階別・方向別に以下のようになりました。
方向 | 階 | Is値≧0.6 | q値≧1.0 | 判定 | |
---|---|---|---|---|---|
X | 2 | 1.56 | 6.24 | OK | 所要の耐震性能を確保している |
1 | 0.36 | 1.44 | NG | 所要の耐震性能を確保できていない | |
Y | 2 | 0.57 | 0.69 | NG | 所要の耐震性能を確保できていない |
1 | 0.12 | 0.51 | NG | 所要の耐震性能を確保できていない |
鉄骨造建築物の場合、現行法の診断基準による耐震性能を満足するためには、Is 値が0.6 以上かつq 値が1.0 以上必要ですから、ジャスト名古屋営業所は、所要の耐震性能を確保していないと判定されました。
そこで私たちは、この耐震診断結果を参考にして、次のような耐震補強計画を立案し、実際に耐震改修工事を実施しました。
●X方向1階
X方向の1階は、本来、柱脚部の粘り強さを向上させたいところですが、基礎・柱脚部分の補強は現実的ではないため、粘り強さではなく、強度の向上を図る方針を採りました。
具体的な手段として、柱の強度の向上を図り、柱頭部分に方杖を取り付けました。これにより柱の強度が増すため、建物全体としての耐震性能の向上が期待できます。
●Y方向1階および2階
Y方向では1階・2階ともに筋違の数を増やすことにより、耐力不足を補って耐震性能の向上を図りました。
下図は、X方向で新設する方杖・鉄骨ブレースの配置と、Y方向で新設するブレースの配置です。
以下、改修工事の様子を写真でご紹介します。
●改修前
点線枠の位置に補強鉄骨ブレースを新設します。
●改修工事中
新設した筋違と方杖です。
●内装工事中
内装下地材を貼り、鉄骨の塗装が済んだ状態です。
●改修後(室内)
●改修後(北面外観)
屋外からも鉄骨補強ブレースが見えます。
これらの補強により、ジャスト名古屋営業所は、各階・各方向ともに、地震に対する安全性を高めることができました。
ただ、営業所は改修工事中も使用したため、オフィス家具、検査器材などの移動が、大小合わせると5回も必要となりました。居ながらにしての工事は移動の段取りや手間、コストなどに大変な労力がかかります。耐震改修の際には、これらの点も予め十分考慮のうえ、計画立案することをお薦めします。